WORK SHOP
 
一般社団法人白樺プロジェクト
事務局( 田中)070-8061 北海道旭川市高砂台 6 丁目 12-1 
Mail:info@shirakaba-project.jp URL:shirakaba-project.jp 
  ( 敬称略)
報告書ダウンロード⇨  20230701-02-樹皮採集+森林ツアーWS.pdf

 
①概要および目的
 71日に、鷹栖町にある「もりねっと北海道」(山本牧代表)の山林で樹皮採集ワークショップを行い、7月2日に、上川町内のシラカバ天然更新地や広葉樹林、簡易製材所を見学する森林ツアーを行いました。森林ツアーと樹皮採集ワークショップの2日間の日程で行うイベントは3回目となります。今年も約40名の森林関係者や学生に参加していただき、大変にぎやかな2日間となりました。
 一般社団法人白樺プロジェクトは、「シラカバを北海道の持続可能な地域資源ととらえ、産業として、 文化として地域に根ざす」ことを目的に活動をしております。 
 4年前からシラカバ樹皮採集ワークショップを、一昨年から北海道大学雨龍研究林で見学ツアーを行い、 シラカバ樹皮の採集体験や天然更新による森づくりの見学を通して、森林や林業や地域の課題、特に広葉樹の保全と利用の問題を参加者と一緒に考えるプログラム作りを目指してきました。  採集した樹皮は、プロジェクト内で高付加化価値利用の推進のために用いられたり、シラカバ樹皮のかご製作ワークショップなどに用いられたりします。
今年は、5月14日に発生した朱鞠内湖北岸のヒグマ人身事故の影響を鑑み、隣接する雨龍研究林での森林ツアーを取りやめ、掻き起こしによるシラカバ天然更新の実績のある上川町の町有林を主な舞台に、 イベントを組み直しました。上川町は林業の活性化を目指してユニークな活動をしています。町の担当者の協力を得て、参加者の皆さんと、新たなフィールドでの体験と学び共有することを目指しました。

山本代表から森の説明を受ける

樹皮の剥け具合を試します

内樹皮は、羊毛フェルトの染色に

キレイに剥けると気持ち良い

内側、外側を交互に合わせて

剥いた丸太は、薪用に持ち帰ります

長いものは数人がかりで搬出

②活動報告
7月1日(土曜日)
 「NPO法人もりねっと北海道」の代表が所有する東鷹栖 14 線の森を利用させて頂き、初夏の短い期間しか行えないシラカバ樹皮の採集を行いました。白樺プロジェクトの活動の柱の一つである「シラカバを高付加価値で使い続ける」を体感してもらうためです。
 よく整備された森の中を歩きながら、山本代表から樹種の説明や、選木の仕方について説明を受けました。「伐りたい木を選ぶのではなく、残したい木をまず選ぶ。将来大きく育ってほしい木を決めたら、その木の生長を邪魔しそうな周りの木を伐る」とのお話を聞いた後、学生を中心に、選木してもらいました。樹皮がきれいに剥ける木かどうかを事前に知るため、幹の目立たないところにカッターを入れて、樹皮を試しに少しはいでから、伐る木を決めました。
 もりねっとの職員がチェンソーで伐採して玉切りした丸太に、参加者が刃物で切り込みを入れ、樹皮を剥がします。カゴ編みなどに使う外樹皮を剥いた後は、さらに内側の分厚い内樹皮を、採集しました。内樹皮は、粗清草堂(美深町)さんが羊毛フェルトの染色に使います。樹皮を剥く作業を初めて体験する学生たちは、「きれいに剥けると気持ちいい!」「樹皮を剥いた後の木の表面がしっとりして冷たい」などと感動した様子で話しながら、笑顔で作業をしていました。最終的に3本のシラカバの立木を伐採しました。樹皮を剥いた後の丸太は、薪用にすべて回収しました。
 夜には、宿泊場所でもあるキトウシ森林公園ふるさと生活体験の家に集まり、参加している各団体が活動紹介などをする、発表会を行いました。上川管内の道有林で20年ぶりに行われた天然林施業についてのお話や、「シラカバの外樹表面が何十年経っても平滑なままなのはなぜか?シラカバ樹皮が剥けやすい期間が初夏の一定期間だけなのはなぜか?」といった問いを明らかにした林産試験場の研究員による研究発表など、どの団体の発表もとても興味深いものでした。各発表の後は多くの質問が飛び交い、質疑応答だけで30分以上になる場面もありました。参加者のみなさんの、森林や樹木に対する関心の高さを垣間見ることができました。
 各団体の発表内容は以下の通りです。
1.上川町産業経済課林務係 平松さん「上川町の林業政策について」
2.上川総合振興局南部森林室 須藤さん「道有林の天然林施業について」
3.北大森林研究会 藤谷さん「北大森林研究会の活動について」
4.林業VIDEOGRAPHER 高橋さん「林業VIDEOGRAPHERの活動について」
5.北海道立林産試験場 渋井さん「シラカバ樹皮の特性について」
6.北海道立林業試験場 内山さん「シラカバ樹皮の利用について」
7.岩見沢農業高校森林科学科 能登さん 「岩見沢農業高校森林科学科の紹介」
8.三井物産フォレスト 田中さん 「三井物産フォレストの森づくりについて」

上川町産業経済課林務係 平松さん

上川町産業経済課林務係 平松さん

上川総合振興局南部森林室 須藤さん

上川総合振興局南部森林室 須藤さん

北大森林研究会 藤谷さん

北大森林研究会 藤谷さん

林業VIDEOGRAPHER 高橋さん

林業VIDEOGRAPHER 高橋さん

北海道立林産試験場 渋井さん

北海道立林産試験場 渋井さん

北海道立林業試験場 内山さん

北海道立林業試験場 内山さん

岩見沢農業高校森林科学科 能登さん

岩見沢農業高校森林科学科 能登さん

三井物産フォレスト 田中さん

三井物産フォレスト 田中さん

7月2日(日曜日)
 2日目は上川町役場に集合し、シラカバ天然更新をしている上川町有林や、町内の90年生の天然林、簡易製材所などを巡りました。上川町産業経済課農林水産グループ林務係の平松係長に案内していただきました。
 まず、2018年に掻き起こしを行った町有林を見学しました。北海道大学の吉田俊也教授によると、通常の施業であれば、針葉樹を皆伐した後の土地にもう一度苗木(ほとんどの場合針葉樹)を植えますが、天然更新を採用する場合は苗木を植えません。重機を使って表土を掘り返し、ササの根茎を取り除いた後は一定期間を置いて表土を戻した後は放置します。すると多くの場合、自然とカンバ類が生えてきて、ササよりも早く育つので、下草刈りの手間がありません。ある程度大きく育った後に、どのような森にしたいか(シラカバのみを大きく育てたいのか、他の針葉樹や広葉樹も混ざった森にしたいのか)に応じた除伐や間伐を行い、森を作っていくそうです。現在、植林しない天然更新を採用しているのは、上川町や北海道大学の雨竜研究林を含め、全道でわずか3パーセントだそうです。平松係長からは、天然更新を採用しにくい背景として、補助金制度の規定が厳しく、もしも失敗するとリスクが大きいのでチャレンジが難しい、といった事情の説明がありました。上川町では補助金を使わずに、天然更新施業を行っているとのことです。
 次に、昨年掻き起こしを行った町有林を見学しました。草が地面一面に生えてきており、稚樹はあまり見当たりません。掻き起こしから1年経った土地には、カンバ類を含めた多用な稚樹が生えてくることが理想の姿だそうですが、この土地ではなんらかの原因で理想的な経過を辿っていないとのことでした。先ほどの「なぜ補助金を使った天然更新が難しいか」について、証明するような事例です。天然更新の施業をした場合、5年経過した時点で主となる樹種(カンバ類が想定される)が草や他の樹種の背丈よりも明らかに大きく育っていなければ、苗木を植え直す再造林の義務が発生するそうです。
 天然更新地の見学の後は、町内の90年生の天然林に向かいました。ある町民が大切に管理していた森を、上川町が引き継いだ場所です。平松氏によると、町内外の人に「上川町はこんな山づくりがしたい」と説明する際に必ず連れて来るのがこの場所。山に入って、実際に見てもらい、山の良さを体感してもらうそうです。なだらかで歩きやすい森林作業道の両脇には、ナラやウダイカンバ、ニレ、シナなどの大きな木が生えています。胸高直径40㎝以上、高さ20m以上の木が林立しています。足元には落ち葉が体積して歩き心地が良く、適度に間隔が開いた木々の間からは木漏れ日が落ちて、とても気持ちの良い印象です。「四万十式」「岡橋式」と呼ばれる、作り方が違う2種類の作業道を林内に巡らせており、その違いを楽しみながら歩くこともできます。上川町では、この森を使ってガイドつきの森林ツアーを行ったり、安全講習を受けた市民に森の一部を開放して「森を一般市民に開いていく」という取り組みを行ったりして、森に親しんでもらうきっかけづくりに精力的に取り組んでいます。道の幅が狭く、木に近づきやすい環境のため、この森を訪れた人の満足度も高いということです。

2018年に掻き起しをした場所を視察

平松さんから説明を受けます

表土戻しをした箇所は成長が良い

昨年掻き起し場所。まだ育ってない

90年生の天然林を歩く

平松さんから説明を受けます

様々な樹種の大きな木たち

「四万十式」作業道

午前中の最後は、簡易製材所を訪れました。上川町が購入して今年6月から稼働しているという製材機を見せていただき、参加者の一人が約4mの丸太を製材機を使って板に挽く体験をしました。平松係長からは「伐った木を山に放置すれば腐って使えなくなるが、製材機があれば板にして乾燥させ、腐らないように保存することができる」と、製材機を導入した経緯の説明がありました。通常なら板にできないような丸太も、表面を挽いてみてベンチなどに活用できないか考えるなど、製材機の有効な使い方を模索しているとのことでした。また、上川町はマウンテンバイクを使った森林ツアーのプランを作ることも検討しています。参加者たちは、現在テストツアーに使われている電動マウンテンバイクを試乗し、快適な乗り心地に満足そうな表情を浮かべていました。
 旭が丘地区にある大雪森のガーデンで昼食の後は、上川町内武華トンネル上の原生林を見学しました。上川町は1954年の洞爺丸台風で甚大な被害に遭い、大量の倒木処理を行った主要な舞台です。台風の被害を免れた原生林を訪れました。 
 原生林は、国有林の上川中部森林管理署より林道の鍵を特別に貸して頂き、入林させてもらいました。太いエゾマツやトドマツが林立し、苔むした倒木から稚樹が更新している様子などを観察しました。
 今回は、初めて上川町を舞台に森林ツアーを組みましたが、洞爺丸台風を契機に、林業で活況を極め、その後急速に衰退していった戦後の北海道の林業史を垣間見ることもでき、今後の森林や林業を考える上でとても有意義な森林ツアーとなったと思います。

簡易製材機で4mの丸太を挽く

電動マウンテンバイクを試乗

胸高直径1m超の太い針葉樹が林立

苔むした倒木から、倒木更新。

③開催日および開催場所
日 時:2023年7月1日(土曜日、樹皮採集)、2日(日曜日、森林ツアー)
場 所:1日目樹皮採集:もりねっと東鷹栖 14 線の森(旭川市)、 
宿泊場所、発表会:キトウシ森林公園ふるさと生活体験の家(東川町)、ケビンA棟   
    2日目森林ツアー:上川町町有林、石北峠近くの国有林(上川町) 
 
④主催:一般社団法人白樺プロジェクト(旭川市) 
協力:上川町産業経済課(上川町)、北海道大学雨龍研究林(幌加内町)、 
   NPO法人もりねっと(旭川市)、北大森林研究会(札幌市)、 
   上川総合振興局産業振興部林務課(旭川市) 
   林野庁北海道森林管理局上川南部森林管理署(旭川市) 
 
⑤参加者
71日 樹皮採集ワークショップ・・・38
 夜に行った発表会・・・34
72日 森林ツアー・・・31
2日間総参加者43名)
 
(参加者内訳)
北大森林研究会15名、北海道大学雨龍研究林関係者6名、林産試験場関係者2名、林業試験場関係者2名、
三井物産フォレスト社員1名、もりねっとスタッフ2名、粗清草堂スタッフ4名、上川町役場担当者1名、道有林担当者1名、岩見沢農業高校教諭1名、木材会社1名、美瑛町地域おこし協力隊員1名、白樺プロジェクト関係者5名、山林所有者1

 
洞爺丸台風被害の様子 (上川中部森林管理局蔵書)
⑥日程および内容
7月1日 (土曜日)曇り
12:30 旭川市突哨山公共駐車場(旭川市東鷹栖 1 19 号)に集合
12:50  シラカバ樹皮採集地(もりねっと東鷹栖 14 線の森)に集合  
   自己紹介。山本代表より選木の仕方について説明。
   樹皮採集ワークショップ( NPO法人もりねっとのワークショップと共同開催)  
15:30 一旦解散、 入浴(東神楽町森のゆ花神楽)、夕食(東川町業者のテイクアウト弁当)  
17:30 宿泊場所であるキトウシ森林公園内の「ふるさと生活体験の家」に集合。
18:00 各団体による発表会(~22:00 )、その後は懇親会
 
7月3日 (日曜日)晴れ
8:30   上川町役場集合
9:00  5年生のシラカバ天然更新地、昨年の掻き起こし地を見学(上川町町有林)
11:20 上川町の通称「中山の森」の広葉樹林を見学
12:20 上川町の簡易製材所を見学
13:30 大雪森のガーデンにて昼食 (東川町の業者のテイクアウト弁当)
14:40 「インフィニティ国際学院」の生徒たちが建てた丸太小屋を見学(上川町町有林内)
15:40  武華トンネル上の原生林を見学  
上川町は1954年の洞爺丸台風で甚大な被害に遭い、大量の倒木処理 を行った主要な舞台です。被害を免れた原生林を見学しました。  
16:40 現地にて解散
 
⑦樹皮採集ワークショップ、森林ツアーを終えて
 雨が懸念されていましたが、幸いにも 2日間天候に恵まれました。今年も、北大森林研究会の学生を始め、仕事で森林に関わっている多くの方々に参加していただきました。
 樹皮採集ワークショップは、「良い木を生かす森づくり」の考え方を学んだうえで伐倒する木を実際に選木する、という流れを体験できて良かったと思います。作業者の指示に従って、安全を確保したうえでチェンソーでの伐倒を間近で見学した後、伐倒した木にカッターやナイフで切り込みを入れて樹皮を剥くというのも貴重な体験です。きれいに樹皮が剥けると達成感も大きいので、多くの参加者が楽しめたのではないかと思います。最初に森を散策している時間は、参加人数が約 40人と多かったこともあり、選木の方法などを説明する山本代表の声が列の後方まで届かなかったことが課題と感じました。次回は拡声器などを用意しても良いかもしれません。
 森林ツアーは、上川町のユニークな取り組みについて詳しく知ることができる構成になっており、学びの多いツアーだったと思います。補助金を使わずに、天然更新を積極的に試みているという珍しい自治体だということを知り、林業の補助金制度についても改めて考えるきっかけとなりました。気持ちの良い風が通り抜ける天然林を歩いたり、製材機を実際に動かしている現場を見たり、マウンテンバイクに試乗したりと、実際に見て、触れて、感じて、森林や林業を五感を通して体感することで、その時に担当者の方々からお話していただいた内容も強く記憶に残る気がしました。上川町が取り組んでいる「一般の人に森に親しんでもらう」という観光の方法、その効果を、実際に肌で感じることができるツアーだったと思います。
 全体を通して感じたことは、森林関係者が交流する「場」として、この 2日間はとても貴重なものだということです。イベント中は常に、あちこちで、参加者どうしで会話したり、情報交換している姿がありました。参加者にとって、知識を深めたり、刺激を受けたりする良い機会になったのではない かと思います。また、さまざまな分野の専門の方々が参加していることも魅力だと感じます。イベントを通して、多種多様な(かなり専門的な)質問が出ましたが、参加者の中に、高い確率で質問に答えられる人がいるという状況も、ツアーの満足度を高めていると思いました。森林にあまり深い関わりがない一般の方が参加しても楽しめるかどうかについては、検討が必要そうです。(笠原)
 
(文責:鳥羽山、笠原)